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Past Projects

 

以下は終了したプロジェクトです.

 

1.JST CREST デジタルシティプロジェクト (2000-2004)

インターネットがビジネスと同様に生活にも使われて始めています.ビジネスは均質で論理的な情報空間を求めますが, 生活は地域の文化的特性を反映した非均質で感性豊かな情報空間を求めます. 例えば,高血圧に苦しむ人たちにとって必要なのは, 世界規模のネットワークではなく,会おうと思えば会える距離に住む人たちの生活情報空間です. デジタルシティは新しいメディアを用いて地域の情報を集積し, 地域コミュニティのネットワークに情報基盤を提供するものです.

デジタルシティ京都は199810月から, けいはんなのNTTオープンラボを中心に, NTTと京都大学の共同研究プロジェクトとして実験が開始されました. 大学や企業の研究所が中心となり, 次世代の都市の社会情報基盤を目指す実験的色彩の強いプロジェクトでした.

その後, NTTオープンラボに限らず, 多くの組織でデジタルシティをテーマとした研究開発や実験が行いやすいよう, 19997月にデジタルシティ京都・実験フォーラムが発足しました. デジタルシティ京都・実験フォーラムは, 文部省科学研究費地域連携推進研究「社会情報基盤としてのデジタルシティの構築」(平成11年度-13年度)で運営されました. 実験フォーラムは, 京都を実験の場とし, 将来のデジタルシティに必要な研究と技術開発を行うための時限的な機構です. テクノロジーを開発・提供する大学・企業と, デジタルシティを利用・運営する行政・街, さらには実験全体を分析し, デジタルシティの方向性を検討する研究者から構成されました.

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20007月から, 科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業(CREST)の研究領域「高度メディア社会の生活情報技術」(領域リーダー:長尾 真先生)の研究プロジェクト「デジタルシティのユニバーサルデザイン」が平成12年度から5年間の予定でスタートしました. プロジェクトの目的は,「デジタルシティを,健常者,高齢者,障害者を含め万人が利用・参加できるものにすること」です.ところが,高齢者, 障害者専用のシステムを開発するのはコストがかかり, 結局それは高齢者, 障害者の負担となります. 生活情報空間を万人のものとするためには, 最初から誰もが使いやすいよう設計すること(ユニバーサルデザイン)が必要です. 本プロジェクトでは, 「情報発信」「情報受信」「参加」を対象に,デジタルシティのユニバーサルデザインのための基礎技術の開発 を目標とします.

科学技術振興事業団デジタルシティ研究センター 京都市二条河原町)を中心に,京都大学情報学研究科,和歌山大学システム工学部, NTTコミュニケーション科学基礎研究所,京都高度技術研究所, 国際電気通信基礎技術研究所が協力して進めています.国内の連携としては,京都大学建築学研究科,デジタルシティ京都・実験フォーラムなどと,海外との連携としては,スタンフォード大学,カリフォルニア大学,パリ第六大学,上海交通大学などと協力しています.

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デジタルシティには現在,地理情報システム, 仮想空間, モバイルコンピューティングなどの技術が利用されています.ここでは基礎研究として,「知覚情報基盤」と呼ぶ情報インフラと,そこで活動する「社会的エージェント」と呼ぶソフトウェアの研究を行います.知覚情報基盤の研究では,全方位視覚ネットワークを開発し,環境の静的構造と人々の動的な行動の意味構造をモデル化し,能動的に情報を蓄積する研究を進めます.このために,大量の時系列データを記録・検索する技術を確立します.社会的エージェントの研究では,エージェントの動作環境(仮想空間,携帯端末を含む)を開発し,エージェントの発話や行為の社会的効果を解明し,エージェントがどのような社会的役割を持ちうるかを明らかにします.メディア表現の適応的選択技術の研究が,知覚情報基盤による情報蓄積と社会的エージェントによる情報活用をつなぎます.まず,都市の多様なメディア表現と人々の解釈の関係を明らかにします.次に,蓄積された情報を,利用者の知識や感性などに応じて変換し提示する技術を確立します.基礎研究の成果は, セキュリティ,環境体験学習,危機管理などに適用し,京都を始めとする現実の都市を舞台に実証実験を展開します.例えば環境体験学習では,都市緑地を対象に仮想自然空間を構築し疑似体験と実体験の連携を可能にします.社会的エージェントによる問題意識の喚起や学習支援,体験学習による成果の仮想自然空間へのフィードバックが重要な課題です.

社会的エージェントの研究では, 住民と来訪者の対話を実現する試みを始めています. FreeWalkという3D仮想空間では多数のアバタがリアルタイムに動き回ることができます. そこで, 例えばアバタと物理都市で歩く人々をうまく関連付ければ, デジタルツーリストとその都市で実際に活動する人々のコミュニケーションを実現できます. アバタの動作はWEBブラウザのプラグインを通してユーザのコンピュータで実行されるので, アバタの位置や速度, 方向をダウンロードしさえすればよく, 多くのアバタの動作をリアルタイムで実現することができます. さらに 何千もの自律的な社会的エージェントの行動を制御できるシナリオ記述言語Qを開発中です. 社会的エージェントは, シナリオに記述された社会的制約のもとで自律的に振る舞い, 他のアバタや社会的エージェントとインタラクションを行います.

ここでの目的は, インターネットの中で人々の様々な活動を支援する社会的エージェント群を生み出すことです. 社会的エージェントはネットワーク内での討論のコーディネータや, オンラインコミュニティの形成に大きな力を発揮すると期待されています. 社会的エージェントの活動範囲は, FreeWalkのような仮想環境ばかりではありません. モバイル環境においても, 社会的エージェントは携帯端末上に現れ, 実際の都市で活動する人々と対話できます. 社会的エージェントは, 人々のコミュニティに入り, そこで定められた社会的役割を果たします. 社会的エージェントは, 電子商取引でも活躍します. 製品とサービスに関する膨大な情報を保持し, 顧客と対話し24時間サービスを行うのです.

社会的エージェントがデジタルシティで重要な役割を担う例として, 災害時に市民を安全かつ効果的に避難させる実験を考えています. 避難シミュレーションでの社会的エージェントの役割は, 歩行者, 駅員, 店員等さまざまです. 逃げ惑う人々を演じる歩行者エージェントが, 仮想空間での避難シミュレーションを実現する鍵となります. また現実の避難では, 社会的エージェントはユーザの携帯端末上に現れ, 適切な指示を出します. 避難の成功のためには, 社会的エージェントは人々に信頼される必要があります. 正しい指示を出すだけでは信頼されるエージェントにはなれません. 信頼とは何かを解明し, 信頼を得るエージェントのデザインを研究する必要があります.

社会的エージェントの性質をより良く知るために, 様々な社会心理学実験を行っています. 社会的エージェントが人々のコミュニティに及ぼす影響は未知だからです. 一連の実験によって, 社会的エージェントが人間関係のどのような影響を与えるのか調べました. 社会的エージェントは, 住民と来訪者, 若者と高齢者等の異なる社会的アイデンティティを持つ人々の仲介者として振る舞えます. 日本とアメリカの学生の異文化コミュニケーションを支援する実験を行いましたが, エージェントは対話の相手の印象のみならず国民性への固定観念にも影響を与えました. 例えば, エージェントが学生に政治的な問題について話すように勧めると, 日本人の学生はアメリカ人の学生と同様に雄弁に話し始めました. 社会的エージェントが人間関係に影響を与える能力を持つことも分かり始めています. 一方, 社会的エージェントはデジタルシティの良き市民である必要があります. 将来は, 社会的エージェントに関する倫理規定も必要となると考えています.

 

2.異文化コラボレーション実験ICE2002-2005

インターネットによる情報環境の激変は, 新たな国際的な連携を世界に生みだそうとしています. 北米, EU内で急速に活発化している連携に呼応し, 東アジアにおいても異文化コラボレーションを促進する必要があります. そのファーストステップとして, 東アジアの多国籍チームによるソフトウェア開発実験を行います. この実験プロジェクトの特徴は, 非均質なグループ間のコラボレーションを追求していることです. 従って実験では, 英語を共通言語として用いることはしません. 各国のグループ間の議論は, 実験参加者の母国語を用います. 機械翻訳ツールを駆使することによって, 参加者間の言語バリアは著しく軽減されるでしょう. さらに, 参加者間の会話により翻訳のミスが克服されるでしょう. 本実験は, 次世代のグローバリゼーションの追求を目的としています. プラットフォームの標準化(英語化)によるものが第一段階のグローバリゼーションであったとすれば, この実験は各国文化を尊重し, 異文化コミュニケーションによって協調を図る, 第二段階のグローバリゼーションを志向するものです.

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科学技術振興事業団の支援により, 京都大学社会情報学専攻では, 異文化コラボレーション実験に用いる多言語間のコミュニケーションツール, TransWEBおよびTransBBSを準備しています. 両ツールは, 利用可能な翻訳サービスにより, 韓国語, 中国語, 日本語, マレー語, そして英語の間のコミュニケーションを可能とするものです. 翻訳技術は, NTT MSC Sdn Bhd (NTTマレーシア), NTTサイバースペース研究所および高電社により提供されました.

2002年に行われた実験では, TransWEBTransBBS, そして多言語コミュニケーションツールのソースプログラムを京都大学が提供し, 韓国, 中国, マレーシア, 日本の学生による開発チームがそれをもとに異文化コラボレーションソフトウェアを開発しました. 1トラックには, 上海交通大学, ソウル大学, ハンドン大学, マラヤ大学,そして京都大学が参加しました. 開発チームの各国の学生は, 一度も対面することなく, ネット上のコミュニケーションだけでソフトウェアを完成させます. 学生グループは, 基本的に各人の第1言語(母国語)を用いてコミュニケーションを行いました. ただし, 機械翻訳が不十分な場合には, 2言語も併用することとしました. 本実験の成果は, 国際会議や学術雑誌などで発表されています.

実験は, 以下の2フェーズにより構成されました. ソフトウェア設計フェーズでは, チームメンバは, TransWEBTransBBSのソースコードをベースに異文化コラボレーションソフトウェアを設計しました. 例えば, 異文化コラボレーションソフトウェアとしてのTransBBSの問題点を克服するために新たに必要な機能を付加するなどの作業を行いました. このフェーズでのゴールは, 次のフェーズで実装できるソフトウェアの設計案を提出することです. ソフトウェア実装フェーズでは, チームメンバは設計案に基づきソフトウェアを実装しました. ここでのゴールは, 異文化コラボレーションソフトウェアの完成と公開でした. ゴール達成のためには, チームメンバ同士の精密な情報交換が必要とされました

実験でのコミュニケーションの場は, TransBBSTransWEBでした. チームメンバは, 実際にこれらのツール上で議論を展開しながら, 効果的な異文化コラボレーションソフトウェアへの拡張を行いました. チームメンバは, TransWEBTransBBS内で各人の第1言語 (母国語)を用いてコミュニケーションを行うことを基本としました. しかし, 機械翻訳がコミュニケーションに障害を与える場合は, 英語などの第2言語以下を併用しました.

この実験は, 京都大学社会情報学専攻, NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 科学技術振興事業団の主催, 情報処理学会, Korean Intelligent Information Systems Society (KIISS), IEEE Malaysia Section, Shanghai Computer Society (SCS)の協賛により行われました.

 

3.人間中心のセマンティックWeb (2003-2005)

セマンティックWeb, 現在のWebで提供されている情報やサービスを, コンピュータソフトウェア(エージェント)によって処理可能とする試みです. このため, 情報やサービスの意味(セマンティクス)を記述する研究が進められています. しかしながら, 現在提案されているセマンティックWebの基本技術は, 記述論理(description logic)や状況計算(situation calculus)に基づく計算中心の技術であり, 肝心のコンテンツを作成,利用するユーザ(人間側)への考察に欠けていることから,このままでは広く普及することは難しいと思われます. セマンティックWebの成功のためには, 今日の人間社会のWeb利用と, セマンティックWebの計算中心(Computation-Centered)の研究アプローチとのギャップを埋める人間中心(Human-Centered)の技術開発が必要です.

そこで本研究では以下に示すように, Web3種の構成要素に関わるギャップを埋める研究を展開しています.

1.      インタフェース: 現在のWebの直接操作インタフェース(人間が制御する)と, セマンティックWebのエージェントインタフェース(コンピュータソフトウェアが制御する)のギャップを埋めることを試みます.このため, 人間の直接操作例からのWebサービスシナリオの自動獲得, 及び得られたWebサービスシナリオからセマンティックWebのサービス定義記述の自動生成を研究します.

2.      コンテンツ: 現在のWebHTMLによるコンテンツの記述(直感的である)と, セマンティックWebのメタタグを付された記述(形式的である)のギャップを埋めます. このため, 大量のHTMLテキストからオントロジを自動的に抽出し、HTMLコンテンツを自動的にタグ付けするための研究を行います.

3.      プロセス: 社会における実際のWeb利用のプロセスと, セマンティックWebの形式的なプロセスモデルのギャップを埋めます. このため, リアルスケールでの実証実験(デジタルシティ, 異文化コラボレーションや電子調達)を推進します. またその経験を通じて, 協調・交渉オントロジなどのプロセスオントロジを提案します.

セマンティックWebIEEE Spectrum (20028月号)に、今後5年間の5大研究課題(five blockbuster technologies)の一つに上げられています. しかしながら, その実現を危ぶむ声も強いようです. セマンティックWebの将来を描こうとすると, その社会的な目標と計算中心的な研究の距離に注目せざるを得ないと思います. つまり, W3Cを率いるTim Berners LeeScientific Americanの記事での目標設定(そこではセマンティックWebAIではないと記されています)と, DAML, OWL, DAML-Sに代表される現在の研究(記述論理、状況計算を中心とする理論的AI研究)との距離をいかに埋めるかが重要となります.

今日のWeb利用が, 直接操作インタフェースを通じて人手によって制御されていることを考えると, セマンティックWebの普及のためには, 計算中心的なメカニズムと人間中心的なインタフェースを継ぎ目なく(シームレスに)提供することが必要です. こうした視点の研究はまだ活発ではなく, これから世界規模で活発になると考えられますが, 本計画はその先導的役割を果たすものです.