インセンティブデザイン

概要

インセンティブとは,アメとムチといった言葉で表現されるように,人にある行動を取るように動機付けるものです.なぜ情報システム設計に,インセンティブという視点を組み入れる必要があるのでしょうか?情報システムを構築したとしても,利用者が設計者の意図通りに使ってくれるとは限りません.場合によっては,誰も使ってくれないかもしれません.このようなことを避けるには,インセンティブを適切に設計することが必要になります.

これを実現するには,人が様々なインセンティブにどのように反応するか,機械(計算機)が理解できることが必要です.また,複数のインセンティブをどのように組み合わせるか考えることが必要です.このようなインセンティブ設計は,メカニズムデザインとも呼ばれ,これに関する研究は,経済学・ゲーム理論と情報科学の境界領域として大きく発展してきています.石田・松原研究室の情報経済グループでは,インセンティブ設計の技術を用いて,投票方式やサービスコンピューティングにおける報酬分配など,幅広く情報システムにおけるインセンティブ設計の課題に取り組んでいます.各研究の概要については,下の研究内容をご覧ください.

研究内容

逐次参加型m票先取投票方式の研究

本研究では逐次参加型m票先取の投票方式の性質を調べました.国政選挙などを見ても投票率が100%にはなりません.対象に無関心といった原因の外に,立候補者の公約を調べる,投票所に行くといった点で投票参加に費用が生じるといった原因もあると考えます.そこで,本研究では投票参加に費用を要すると仮定します.このとき,強制参加のように全員に投票を強いる方式は,大きな費用が発生します.一方,ランダムに意思決定する方法では費用を削減できますが,意思決定の品質に疑問が生じます.つまり,集合的意思決定の品質向上と投票に要する費用削減をどう両立させるか,という課題が存在します.この課題を検討するため,私たちは逐次参加型m票先取の投票方式に着目しました.これと類似した投票方式は人気投票などで用いられていますが,その性質はまだ十分に議論されておらず,より広範な応用への妨げとなっていると考えられます.そこで,本研究において私たちは(1)投票参加に費用を要する場合の逐次参加型投票モデルを構築し,(2)動的計画法を用いた最適投票戦略導出法を考案し,(3)可決票数mや投票期間などの設計パラメータの影響を分析し,(4)意思決定の品質向上と投票費用削減の両立という点で,逐次参加型m票 先取投票方式が有効となる状況を解明しました.

iterative_voting

図:2票先取,A案選好者である確率が0.9の場合.2番目の投票者は,自己がA案に投票した場合の期待効用と,棄権した場合の期待効用を比較して投票行動を選択する.
  1. 鍵福竜也, 松原繁夫:逐次参加型m票先取投票方式の分析. 情報処理学会論文誌, Vol.53, No. 11, pp. 2457-2465, 2012.
  2. Ryuya Kagifuku and Shigeo Matsubara: Costly Voting with Sequential Participation. The 14th International Conference on Principles and Practice of Multi-Agent Systems (PRIMA-2011), pp. 68-82, Wollongong, Australia, 2011

サービス合成における報酬配分法

チームを組んで何か作業をし,全体として報酬を得る,このような場面はよくあると思います.ここで問題となるのは,全体として得られた報酬を個々にどう分配するかです.この問題はゲーム理論においても様々な研究が行われていますが,計算機利用を前提とした場合の連携の柔軟さから,既存の配分法が機能しないことがあります.本研究では,全体で得られた報酬を個々に配分するという課題に対して,積算方式や均等配分方式がうまく機能しないことを示しました.これは,個々の請負者単位で見たときに,報酬額がタスク処理に要する費用を下回る場合が発生するためです.また,ゲーム理論で提案されているShapley値に基づく方法を取ったとしても,過小供給の問題が生じることを示しました.

つぎに、チームを構成するメンバの数や、一部のメンバ参加のみでタスクが処理された場合の価値に関して,過小供給の問題が緩和されるか深刻になるかを分析しました.その結果,構成メンバの数が増えれば,請負者の戦略的行動の影響は小さくなり,過小供給の問題が緩和されることがわかりました.また,全てのメンバがタスク処理に参加しなければ依頼者にとって価値がないといった場合は,請負者は戦略的行動を取っても得るものが少なく,過小供給の問題が緩和されることがわかりました.ここで得られた結果は,クラウドソーシングでの事後的報酬配分法を考案する上で役立つと考えます.

  1. Shigeo Matsubara: Profit Sharing in Service Composition. 9th International Conference on Service Oriented Computing (ICSOC2011), pp. 645-652, Paphos, Cyprus, 2011.
  2. 松原繁夫:複合webサービスに対する収益配分法の検討.合同エージェントワークショップ&シンポジウム2010 (JAWS-10), 富良野, 2010